挨拶
群馬大学情報学部 教授 伊藤賢一
2025年度より社会情報学会(SSI)の会長を拝命いたしました。庄司昌彦副会長、北村順生副会長はじめとする理事・事務局の先生方のみなさんお力添えを得て、微力ながら本学会の発展に尽くしたいと思います。
本学会は、1996年に設立された二つの日本社会情報学会(JASIとJSIS)を源流として、2012年に一般社団法人として発足いたしました。2016年に日本学術会議がとりまとめた『大学教育の分野別質保証のための教育課程編制上の参照基準 情報学分野』においては、社会情報学は応用情報学ではなく、むしろ情報学の中核部分を構成しています。ここでは社会情報学は、情報学の理論・原理と社会制度・組織・制度的文脈を橋渡すような学問的な位置を与えられています。本学会の初代会長の伊藤守先生はこのことを社会情報学の「一つの成果」(伊藤 2017: 257)と指摘されていますが、わが国の学術の世界で、社会情報学がそれだけ存在感を発揮してきたことを反映しているものと思われます。
このように社会情報学は、情報学の理論・原理を探究するとともに、情報技術がわれわれの社会にもたらす衝撃を理解し、さまざまな意味でより望ましい未来を展望することに寄与することを目指すものです。高度情報社会が予想を超えた速度で進展する今日において、量子コンピューティングや生成AIの利活用、さまざまなデジタルメディアの普及、それに付随する情報セキュリティや倫理・法制度の課題など、学際的な多様なテーマが次々と立ち現れています。社会情報学は、これらを統合的にとらえる学問領域としてますますその重要性を増しています。
本学会は2022年に学会設立10周年を迎えました。2023年9月の学会大会では、前会長の木村忠正先生のお声がけにより、「社会情報」を冠する全国の大学・大学院が集うワークショップ「社会情報サミット」が開催されました(ご報告の一部は本ウェブサイトのコラム「社会情報学への招待」でご覧いただくことができます)。また、北村順生実行委員長のご尽力により、これまでの学会大会の発表論文などをアーカイブ化する10周年記念「大会論文アーカイブ」事業も進行しています。
こうした中、とりわけ本学会が重視しているのは、若手研究者の育成と支援です。会員が自由に設置できる研究部会や学会大会、和文・英文の学会誌による発表機会の提供に加えて、学際的研究合宿への支援や学会大会への旅費支援事業、修士論文報告会(日本メディア学会と共催)を通じて、私たちは次世代の担い手が安心して研究に打ち込める環境を整え、交流の機会を提供しています。若い世代の新鮮な視点や挑戦的な発想は、社会情報学をさらに発展させる大きな力です。これらの機会の積極的な活用を期待しています。
さらに、学会活動の国際化も本学会が以前から重視している課題です。コロナ禍の時期においては対面での学術交流や海外への渡航それ自体が制限されていましたが、その後の状況の変化により国際的な学術交流も回復しつつあります。この度、EBSCO社が提供する外国雑誌論文オンラインデータベース(EBSCOhost)に本学会が発行している英文誌Journal of Socio-Informaticsが収録される運びとなったことも、国際的な学術交流を後押しする一歩といえます。本誌掲載の会員の論文が英語圏の読者に知られることで、学術交流がますます盛んになることを期待します。
本学会の活動は、会員一人ひとりの積極的なご参加とご協力によって支えられています。今後とも、学術研究の深化と社会への貢献の双方を推進しながら、社会情報学の可能性を広げていきたいと考えております。入会を検討されているみなさんも、ぜひ本学会にご参加いただき、私たちとともに新しい知の地平を切り拓いていただければ幸いです。
※ 伊藤守(2017), 「社会情報学の〈未来〉」『社会情報』Vol.25, No. 1-2, pp. 257-259.
(2025年9月)